あるところに「ことばのせかい」がありまして,そのなかに「ひらがなのくに」がありました。「あ」から「ん」までのひらがなたちが,日本のくにからきこえてくることばをつくって,ことばのとおりにいきているのでした。
あるとしのおおみそかのことです。 「ひらがなのくに」から,しくしくとなきごえがきこえてきました。どうしたのかとちかづいてみると,ないているのは,「ぜつぼう」くんでした。 ああ,ぼくは,ゆめもきぼうもない「ぜつぼう」。ああ,いやだいやだ。どうして,ぼくは,こんなにかなしいことばなんだよう・・・ と,じぶんのことばをかなしんで,ないていたのでした。 「ぜつぼう」くん,きみはいつから「ぜつぼう」くんなの? と,きいてみると,「ぜつぼう」くんは, ぼくは,もう,とおいむかしから,ずーっと「ぜつぼう」だよ。 と,いいました。 ねえ,一年のうちで,おおみそかだけは,ひらがなのいどうがゆるされているはずだよ。そんなにかなしいのなら,ちえをしぼって,もっといいことばになったらいいじゃないか。 と,はげましましたが,「ぜつぼう」くんは, なにをしたってもうだめさ。どうせ,ぼくは,「ぜつぼう」だもの。 と,くびをうなだれるばかりなのです。 「ぜつぼう」くんにいってもむりのようなので,ぜの「だくてん」くんにきいてみました。 ぜの「だくてん」くん,なんだか,きみはいじけたかたちをしているね。 すると,「だくてん」くんは,いいました。 「ぜつぼう」のいちばんのせきにんは,ぼくにあるんだ。ああ,ぜつぼうのだくてんなんかいやだいやだ。くやしくって,かなしくって,ながいあいだ,いらいらしていたら,こんなにみじめなかたちになってしまったんだよ。ああ,ぼくなんか,いなければいいんだ。 それをきいて,「ぜつぼう」くんが,いいました。 はなれたいやつは,はなれればいいさ。もう,どうでもいいんだから。 「だくてん」くんは, ああ,それなら,はなれちゃうから。 といって,「せ」のじのせなかからすべりおちていきました。 すると・・・「ぜつぼう」は「せつぼう」にかわりました。 「せつぼう」は,大きなこえでさけびました。 ああ,いいことばになりたいよう・・・ 「せ」のじが,ぐらぐら,うごきはじめました。 みるみるまに,「せ」の三つのかくがはなれて,「し」と「十」になりました。 しかし「十」はかんじなので,すべりおちていきました。 「せつぼう」は,なんと「しつぼう」になってしまいました。 そのしゅんかん,すべりおちていく「十」のながいほうの「一」が, 「つ」をひっくりかえして,くっつくと「ん」のじにかわったのです。 「しつぼう」は,みごとに「しんぼう」になりました。 すべりおちた「だくてん」も「1」もはくしゅをおくりました。 「しんぼう」ってなんてすてきなことばでしょう。 「しんぼう」は,すべりおちた「だくてん」と「1」にいいました。 みんな,こっちへおいで。みんなで,いいことばをつくろうよ。 「しん」くんと「だくてん」くんと「1」くんが,なにやらそうだんしています。 「ぼう」は,そのようすを,ただ,ぼうっとながめていました。 おおみそかのよるはしんしんとふけて,いきました。 やったー,いいことばになったぞ。ばんざーい! 「しん」と「だくてん」と「1」は,きょうりょくして,からだをよせあって, 「き」のじをつくったのでした。 こうして,「ぜつぼう」は,「きぼう」にうまれかわりました。 「きぼう」くんはおもいました。「ぜつぼう」は「きぼう」のもとだってことを。 あたらしいとしのたいようがかおをだし,ひらがなのくにをまっかにそめていました。 *この話は、童話「ぜつぼうの濁点」(原田宗典作・教育画劇)をヒントにしてつくりました。
by tan230
| 2008-12-24 20:43
| 教育
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友部丹人
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