持つは「もつ」?

編集会議で

ある編集会議でのことです。分担した原稿の校正を全員で確認している中で,ある委員さんから次のような質問が出ました。
「『もつ』は手に持つとき以外はひらがな表記でないとおかしいので,○頁の○行目の『持つ』はひらがなに直すべきだと思うのですが。」
学習指導要領やその解説書においては,「持つ」は「もつ」と表記されています。学校で作成する文書もいきおい,それに倣っている現状があります。しかし,手に持つとき以外は「もつ」と書かなければならないというきまりなどどこにもないことを確認しておかなければならないな,思いました。
その席上,私は,「もつは持つと漢字で書いてよいこと。できるだけ執筆者の原稿を生かした方がよいと思うこと。ただし,広報として表記を統一することも時には必要。」という三つの内容を意見として述べました。
結局,「もつ」で統一することになりましたが・・・。

漢字の成り立ち

ご承知のように,漢字は成り立ちによって象形,指事,会意,形声の四つに,わが国固有の国字を加えて五種類に分類することができます。
遠い遠い昔のこと,目に見える事象,象徴的な動きや働きを絵に表したものから生まれた漢字です。時代が下がるにつれて目に見えない概念をも包括して表現できるまでに高度な深化を遂げた文字です。
「持」は,会意形声であり,ジ(もつ,はべるという意味を表す音)を寺に当てて,手を増し加えて作られた漢字です。手にもつことはもちろん,身に付けること,所有すること,そして心にもつことをも含めて使用するのが常です。
例えば,「持戒」という言葉がありますが,これは「心に戒めを持つ」という意味ですし,他にも,「力持ち」「金持ち」「所帯持ち」「気持ち」「心持ち」などと使用しています。

もし,手に持つだけが「持つ」なら

もし,手編は「手」だけ,木偏は「木」だけということがまかり通ってしまうと,どうなるでしょう。
「心を打たれる」・・・実際に手で打たれることではないから,「うたれる」にする。
「心が揺れる」・・・・実際は揺れていないので「ゆれる」にする。
「心が温かい」・・・・実際に温度が高いわけではないので「あたたかい」にする。
「心が寒い」・・・・・実際に低温になるわけではないので「さむい」にする。
「心に眠る」・・・・・実際に心の中に目があるわけはないので「ねむる」にする。
「学校」・・・・・・木造の舎の場合のみ使用。鉄筋コンクリートの場合は「学こう」または「学鉸」とする。
 ・・・
と,とめどなくひらがな書きが増え,混乱を巻き起こすことになるでしょう。

大陸では

大陸の方々は漢字しかないわけですから,上記のようなことは考えらないことでしょう。もっとも,大陸では「有」という漢字に「ある」,「もつ」の意味を持たせて使用しています。この漢字は右手に肉を持っている様を表しています。
でも,大陸には「右手に肉をもつ以外は『有』は使用できない」などと言う人は,たぶんいないでしょう。

ひらがな書きにする理由とは

ここで,あらためて思うことですが,文部科学省はなぜ「持つ」を使用しないのでしょう。手に持つのではないから,などと本気で思っているのでしょうか。
まあ,筆記する上では「持つ」と書くよりも「もつ」と書いた方が,時間的にも,経済的にも,地球環境保全の上でも,断然すぐれていると言えましょう。
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by tan230 | 2007-07-18 08:45 | 教育
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