道徳教育の位置

教育再生会議の第二次報告(6月1日)の内容について述べます。
この会議は安倍前総理の肝いりで招集されました。安倍総理が退陣した今,三次報告は出さずに会議は解散するのでしょうか。是非そうしてほしいものです。第二次報告を読む限り,こんな報告しか出せない会議に莫大な税金が使われたのかと思うと忸怩たる思いにとらわれるからです。
第二次報告の学校教育に関する部分では次のような提案がなされています。
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Ⅰ 学力向上にあらゆる手立てで取り組む -ゆとり教育見直しの具体策-

提言1 授業時数10%増の具体策
【夏休みの活用,朝の15分授業,40分7校時の実施,土曜日の授業実施】
提言2 全ての子供にとって分かりやすく,魅力ある授業にする
【教科書の分量を増やし質を高める,主権者教育など社会の要請に対応した教育内容・教科再編,全教室でITを授業に活用,「教育院」構想,全ての子供一人ひとりに応じた教育】
提言3 教員の質を高める,子供と向き合う時間を大幅に増やす
【社会人採用のための特別免許状の活用促進,授業内容改善のための教員研修の充実,教員評価を踏まえたメリハリある教員給与体系の実現,教員の事務負担軽減】
提言4 学校が抱える課題に機動的に対処する
【学校の危機管理体制の整備,学校問題解決支援チームの創設,学校,教育委員会の説明責任,全国学力調査の結果を徹底的に検証・活用し,教員定数や予算面で支援】
提言5 学校現場の創意工夫による取組を支援する
【学級編制基準の弾力化や習熟度別指導の拡充,学校選択制を広げる,教材開発など教員のチームによる取組】

Ⅱ 心と体 - 調和の取れた人間形成を目指す

提言1 全ての子供たちに高い規範意識を身につけさせる
【徳育を教科化し,現在の「道徳の時間」よりも指導内容,教材を充実させる】
提言2 様々な体験活動を通じ,子供たちの社会性,感性を養い,視野を広げる
【全ての子供に自然体験(小学校で1週間),社会体験(中学校で1週間),奉仕活動(高等学校で必修化)を】
提言3 親の学びと子育てを応援する社会へ
【学校と家庭,地域の協力による徳育推進,家庭教育支援や育児相談の充実,科学的知見の積極的な情報提供,幼児教育の充実,有害情報対策】
提言4 地域ぐるみの教育再生に向けた拠点をつくる
【「放課後子どもプラン」の全国での完全実施,学校運営協議会の指定促進】
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この報告に対して玉井康之氏(北海道教育大学長補佐)は,*「文科省の既設の文教政策を追認したもので,新鮮な提案ではない」と痛烈な一撃を加えています。
特にⅡの提案1の「徳育の教科化」には,開いた口がふさがらない思いをしましたが,8月31日付の読売新聞社会面記事「日本人のマナー『悪くなった』88%」の中の「政府の教育再生会議は,道徳の時間を徳育として教科に格上げする方針を打ち出している」というくだりには,呆然としてしまいました。
教育再生会議には,教育学者は一人もいないのでしょうか?
吉田武男氏(筑波大学大学院准教授)は,*「教育学の視点から見れば,徳育の教科化は,道徳教育の格上げではなく,愚弄的な格下げを意味している。」「道徳教育は教科教育のうえに位置づけられるべきものであって,いやしくも教科教育と同列に扱うべき程度のものでは決してないのである。」「道徳教育は,指導方法を工夫して時間をかけさえすれば大部分の知識・技能を習得させられるような教科教育とは根本的に異なっているからである。」と述べ,稚拙極まりない提案に一喝を与えています。胸のすく思いです。
私は,このような提案が出てくる背景には,文科省の作成した生きる力の構造図に問題があると思うのです。
「確かな学力」を上に置き,左下に「豊かな人間性」を,右下に「健康・体力」を配置した「生きる力」の構造図・・・豊かな人間性も健康・体力も「下」で,学力が「上」・・・です。
提言には,健康・体力は一言も触れていませんが,構造図どおりに軽く扱ったとしか思えません。

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私は,生きる力の構造図をAからB(豊かな人間性の中に確かな学力・健康体力が含まれる)へ転換することこそ「教育再生会議」が提案すべき内容だと思えてならないのです。

* 教職研修(2007.9月号 教育開発研究所)から引用
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by tan230 | 2007-09-18 19:37 | 教育
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